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今回の講演会は8月3日から広島で行われるICBUW大会に参加するために来日したイラク人医師、ジャワッド・アルアリ氏、そして環境放射能測定の専門家でありイラクの環境保護団体代表であるカジャック・ヴァルタニヤン氏を講師としてお招きして行われた。両氏ともイラク南部のバスラ在住であるが、バスラは、イラク戦争ではバグダッドよりも被害は少なかったものの、湾岸戦争では主戦場となった地域に隣接していたため、劣化ウランによると思われる健康被害が著しい地域である。
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ジャワッド・アル-アリ医師の報告
バスラで疫学調査をする意味とは、1991年の湾岸戦争から2003年にかけて度重なる爆撃により蓄積されてきた劣化ウラン(以下DU)弾の被害を評価するため、これまでもがんの死亡率については研究していたもののそれは批判を受けてきたので、これを検証し直す意味もある。そして、今後の研究において確固たるデータベースを確立するためである。
がんは(イラクだけでなく)世界中で大きな問題になりつつある。がん発生の特定要因はまだ発見されていない。ある種の傾向はあるものの、それは常に明確なわけではない。
(このあとはパワーポイントも交え、スライドを指し示しながらの説明が続く。)
がんが一見増加したようにも見えるのは、それまでよりも診断技術が向上したこと、がん患者の登録数増加、人口の変化などによる可能性もある。がんの診断、登録は不完全なものであり、公の登録ではこの10年間増加していても、不完全でムラがあるものとなっている。バスラのがんの状況をもっとはっきりさせる必要がある。
がんの発症が一番多い年齢は60〜64歳で、男性よりも女性のほうが多い。それは乳がんのせいである。1990−1997−1999−2005年にかけての推移では、乳がんは3倍、リンパ腫は4倍に上昇している(リンパ腫は放射能と非常に関係が深いがんのひとつということである)。
―バスラを東西南北のエリアに分けて調査した結果を示した数値では、西部が一番多いことが指摘された。年齢が上がるにつれがんの発症率も上がるのは、がんそのものが高齢になってから発症するものであるということ、白血病は通常の発症率よりも少々高くなっていることを指摘されていた。
結論としては、@登録されたがんの発症例に明確な増加がある、A2005年から一年間は、集中的な調査でも正確に測ることは難しい、B疫学的調査の後は、特定のがんに対する調査をしなければならない、ということである。
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カジャック・ヴァルタニヤン氏の報告
―ヴァルタニヤン氏からは、バスラ地域の環境のDUによる汚染調査についての報告がなされた。まずはDUについての簡単な説明から。

通常、土に含まれるDUの量は1ppm−3ppmである。ウランの放射性はU235を含む量で異なり、これが天然ウランと劣化ウランの違いである(注:天然ウランを核燃料として使用するためには、それを濃縮しU235の純度を上げる必要がある。その過程で生じるのが劣化ウランである)。
DUは、民間では放射線を防ぐシールド材、放射性物質を運搬する入れ物、飛行機のおもり等に使用されている。米英軍では砲弾の貫通体としてDUを使用している。DU弾が標的に当たると、DUの20〜30%がエアロゾル化し超微粒子となるが、その50〜90%は生物に吸入され得るものである。その超微粒子を吸い込むと、それらは肺の中で何年も残留することになる。DUの微粒子は風に吹かれて移動し、また土壌を汚染する。
DU弾は1991年の湾岸戦争の際、米英軍により初めて使用された。2003年の第三次湾岸戦争(イラクではいわゆる"イラク戦争"をこう呼んでいる)では、主に英軍が100t以上のDU弾を都市近郊で使用した。
―スライドには実際に使用されたDU弾や、DUに汚染されたバスラ地域の写真が映し出された。
(2つの戦争で)バスラ西部では、油田を含む多くの地域が被害を受けた。調査対象は土壌、表層水、地下水、野生植物、野菜などである。
イラクとサウジの国境近くではDUに汚染された戦車が放置されており、さながら"戦車の墓場"のようであり、油田や地面に転がっているDU弾など、どこも放射能の数値が高い。そこで測定されるウラン235や238の数値は、そこがDU弾により汚染されていることを示すものである。
ズベイラ油田、空港、バスラ大学のある地域、モスク、高射砲なども汚染された。
DUのチリ(超微粒子)により周辺にある住宅も汚染されている。その近くに住む家族の一人で、DU弾によると思われる被害で足にひどい傷を負った(スライドを指し示しながら)。
DUに汚染された装甲車が打ち捨てられているが、その近くで子どもが遊んでいる。
バスラの行政区域は、水も木も汚染されている。バスラのシャトル・アラブ川のそばには、バラバラに切断された戦車のスクラップが一箇所に集め放置されている。その場所の近くには病院も住宅地もある。1991年と2003年に汚染された地域は、(それぞれ印を付けて示されたスライドが映し出された)バスラの全体に広がっている。
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◆ アルアリ医師、ヴァルタニヤン氏への質問
Q1:DUの影響を認識されたのはいつか?
―アルアリ医師(以下A):DU弾が使用されていることを1996年になるまで知らなかった。その頃、がん患者が増加していることに気づいてはいたが、それがなぜなのか分からなかった。政府はDU弾が使用されたことを隠していた。
Q2:ヴァルタニヤンさんの調査の資金源は?どこか外国から援助されているのか?
―ヴァルタニヤン氏(以下V):私自身の出資、そしてイラクの友人たちの援助によるものである。
Q3:牛などの家畜や穀物も汚染されているのか?
―A:イラクに牛はいないが、汚染地域のヒツジはDUの超微粒子で汚染されている。
Q4:サマワを拠点に活動していた日本の自衛隊は、DUに汚染されているのか?
―V:サマワは私の調査研究領域外だが、サマワにもDU弾(で爆撃され)汚染された標的があるのは間違いないだろう。

Q5:ヴァルタニヤン氏は詳細な分析をされているが、この分析はヴァルタニヤンさんご自身でされたのか?どこか外国で行われたのか?
―V:自分自身で分析している。
Q6:そのデータはイラクの環境省のようなところに提出しているのか?イラクの環境省は、イラクの230−240に及ぶ地域がDUに汚染されていると発表したが、その機関とは協力しているのか?
―V:データは提出しているし、環境省の報告には、先ほどここで示した数値などが反映されていると思う。
Q7:DUで汚染された戦車などは打ち捨てられているままだが、イラクの人々はその危険性を知っているのか?
―V:(危険性を知っているとしても)戦車をどこに持って行けばいいのか?(持っていくところなどない)。どこに持って行こうと、ただ汚染を移動するだけの話だ。今の状況ではどうしようもない。
Q8:乳がんの発症率に着目するのはなぜか?
―A:広島でも、原爆のあとでは乳がんの発症率は原爆前よりも4倍に増加しており、放射能と乳がんの関係性は明らかである。体内に入ったDUは、超微粒子ひとつぶでも非ホジキンリンパ腫(がんの一種)を発症させるのには十分な量である。
Q9:汚染地域のDU除去やクリーンアップの計画はあるのか?
―V:政府がなんとかするだろうけれども、それは近い将来のことではないだろう。
―A:除去には費用がかかりすぎるし、汚染された戦車を地中に埋めるにしても、土を掘り返すことで再びDUのチリが舞い上がり、また被害が広がってしまう。国際的な協力が必要だ。
Q10:乳がんなどが増加している(ことが分かっている)のにも関わらず、正確な評価ができない理由は?
―A:がんになってもバスラ以外(ヨルダンやバグダッドなど)で治療を受ける人がいることや、がんにかかっても登録せず亡くなる人がいることが理由として挙げられる。
Q11:DUの化学的な悪影響は?
―A:現在DUの毒性を評価しているところである。6ヵ月後くらいに結論が出るだろう。
Q12:ナシリヤやサマワなどで、免疫機能が働かずに子供たち亡くなりつつある、と聞いたことがあるが?
―A:DUの被害は体の免疫力を低下させる。バスラでもイラク全体でも、子供たちの病気が増えている(病気にかかる子供たちが増加している)が、それには免疫力の低下だけでなく、医薬品の供給不足、栄養不足なども関わっている。DUだけに原因を特定できないと思う。
Q13:DUの有害性を、日本政府も、WHOすら認めていないが、それについてどう思うか?イラク内ではサダム・フセインが使用した化学兵器のせいだ、と言う人もいるがそれについても何かご意見があれば。
―A:医師として放射能はがんを生み出す原因であることは分かっているし、それはどの医学書にも書かれていることである。それ以外に、戦後にがんが増加していることは明確である。戦前と戦後を比較して変わったことがあるとすれば、それは放射能の有無。化学兵器もがんを発症させるかもしれないが、(がん患者が増加した)バスラの西部、南部に化学兵器があるとは証明されていない。ナシリヤの化学工場が攻撃されたことにしても、そこはバスラからは遠く離れているのでバスラのがん患者増加とは関係ないだろう。
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日曜日の夕方という時間設定ながら、予想を上回る多くの方々が参加してくださいました。イラクで活動する医師、環境保護団体代表のお2人に直接質問ができる貴重な機会ということもあり、参加者の皆さんの質問は時間いっぱいまで続きました。
参加してくださった皆様、どうもありがとうございました。
リポート:菅野 久美子(CADU-JP)

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